掲載誌 | 有料メールマガジン「Scan Security Wire(2005年度)」 今注目のネットワークにまつわる規格・制度をわかりやすく解説! |
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掲載年月 | 2005年9月8日 Vol.339 |
執筆者 | 小松信治(アイドゥ) |
前回に引き続き、カスペルスキー・ラブス社日本オフィスにて、日本法人代表のアドリアン・ヘンドリックス氏に取材した内容を述べる。今回は、2000年に同社が発売を開始したオリジナルブランド製品群の詳細と、日本市場参入の戦略について取材結果をまとめた。
同社で発売しているPC向けセキュリティソフトウェアは、
の3つに大別できる。この区分を基本に、個人から大企業までの様々な規模、WindowsからUnix系OSまでの様々なプラットフォームをカバーできるようになっている。同社はこれらの製品ラインナップの同時導入を推奨しているが、個別導入も可能だ。
同社のアンチウイルス製品の詳細は以下のようになっている。
◎個々のPCやサーバを保護するための製品
○個人ユーザ・SOHO・中小企業向け
・Kaspersky Anti-Virus Personal
・Kaspersky Anti-Virus Personal Pro
◎ネットワーク全体を保護するための製品
○中小企業向け(導入台数250台未満)
・Kaspersky Anti-Virus Business Optimal
○中堅・大企業向け(導入台数250台以上)
・Kaspersky Corporate Suite
PC向けの製品は、ウイルスから保護したいPCやサーバに個別にインストールし動作させるタイプの製品で、全体を統括管理することなどはできない。一方、下のBusiness OptimalやCorporate Suiteは大規模なマルチプラットフォーム環境のセキュリティを確保するための統合ソリューションであり、付属のAdministration Kitを使っての統合管理が可能だ。
元々アンチウイルスの「エンジン」開発に特化し、OEM提供を行っていた経緯から、同社は様々な機器、例えばルータやメールゲートウェイ、ファイルサーバ、PDAなどにエンジンを組み込む技術を持っている。統合ソリューションでは、これらを統合管理することも可能であり、これは同社の強みの1つである。
同社のアンチウイルス製品は、実に900以上ものファイル圧縮の仕組みに対応している。他社がおおよそ20~50であるのと比べると、圧倒的な数字だ。その背景にあるのは、創業者ユージン・カスペルスキー氏が過去にファイル圧縮の研究をしていたという実績と、アンチウイルス専業ベンダーとしての15年に及ぶ業績だ。
元々アンチウイルス専業ベンダーであったことのもう1つの強みが、新しいウイルスに対する対応の早さだ。ウイルスに関する世界随一の情報網と技術を持つ同社では、新しいウイルスがネットワークに出回ってから20分程度で、ウイルスを解析し、パターンファイルを作成することができるという。そのため、同社製品では1時間に1回という非常に高頻度なパターンファイルの更新が可能となっている。
1時間に1回もパターンファイルを更新していたのでは、アップデートに時間を取られてしまって、逆に使い勝手が悪いように思えるが、その心配は無い。なぜなら、更新時にダウンロードされるファイルサイズが他社製品と比較して小さく、その適用も素早いからだ。
一般的なアンチウイルスソフトウェアでは、パターンファイルをコンパイルしてから、PCに導入している。そのため、ダウンロードするファイルサイズが大きくなる上に、コンパイル時間がどうしても必要となる。一方、同社のパターンファイルは、始めからコンパイルされた形で配布される。これにより、小さいダウンロードファイルサイズと、更新作業の短時間化が実現されている。
また、同社では配布するパターンファイルに不具合が無いことを保証するため、次のようなファイル配布の仕組みを利用している。
まず配布ファイルは、ロシアのウイルス研究所から、ロシア国内のダウンロードセンターに渡され、以下のチェックを受ける。
この4重のチェックを通過したものだけが、ロシア国内の配布センター、(日本向けであれば)アジア地域の配布センター、日本の配布センター、そして実際の日本国内の配布サーバの順に転送される。さらに、上記の3ケ所の配布センターおよび国内配布サーバにて、ダウンロードセンターで行われたのと同じ4重のチェックが実行される。つまり、配布される更新ファイルによってPCが誤作動を起こすなどの不具合は非常に発生しにくい。
なお、日本国内には4つの配布サーバがあり、クライアントはネットワーク上で最も近いサーバに接続するよう、設定されている。
同社では、アンチウイルスの技術を生かし、アンチスパム製品も開発、販売している。これが、Kaspersky Anti-Spamシリーズであり、個人ユースのAnti-Spam Personalと、企業やISP向けのAnti-Spam Corporate/ISPの2つのラインナップがある。
Anti-Spamは、日本語を含む多言語のスパムメールへ対応している。英語圏の製品では、まず英語のみの対応であることが多い中で、既に多言語化されているのは利用者にとってはありがたい。また、スパムのデータベースも1時間に1回という高い頻度で更新されており、ユーザのPCやサーバをスパムの脅威から素早く守ることができる。
この製品は、一般的に言うパーソナルファイアウォール的な製品だが、以下の2点が他社製品と大きく異なる。まず、単純に攻撃をシャットアウトするだけではなく、どんな攻撃を受けたのかを自動的に判別できる。SYN FLOOD攻撃を受けたのか、PingによるDoS攻撃を受けたのか等をユーザに報告する機能を有している。
さらに、「ステルスモード」でアンチハッカーを動作させれば、そのPCはあらゆる通信に応答しなくなるため、ネットワークから見えなくなる。特定のポートだけが反応するような指定もでき、例えばウェブサーバを「ポート80以外はステルスモードで」動作させることも可能だ。パーソナルファイアウォール製品と言いつつも、むしろ非常にホストベースのIDSに近い製品だといえる。
同社は、昨年3月に日本オフィスを開設した。現在では基本的に全製品の日本語化が完了しており、日本市場に参入する準備は整いつつある。現在のオフィスは、日本における技術センターとして残し、マーケティング・セールス担当のオフィスを近いうちに開設した上で、本格的な市場参入を開始するとのことだ。
戦略は非常にはっきりしている。信頼できる技術を、常に最新のものとして提供し続けることで、市場の信頼を勝ちとる。これが基本ポリシーであり、それに基づいて、OEMに特化した時代から現在までしっかりしたチャネルを築いてきた。日本国内でも、着々とチャネルパートナーを開拓しつつある。
同時に、日本市場では大規模ユーザから攻略する戦略をとってきた。これが功を奏し、前回述べたような大手教育機関やISPにて製品が稼動中だ。これらの成功から、製品の良さが口コミで徐々に市場に浸透していると、同社では分析している。日本語によるセキュリティ情報サイトとあわせ、中堅・小企業・個人を攻略する際に、これらの評判が役に立つ、とのことだ。
前回、これから流行するのはモバイルウイルスだろう、という同社の予測と、それに対する対応製品について述べた。筆者が、さらにその先の予測があるのかを尋ねてみたところ、断片的ではあるが、今後の方向性について聞くことができた。モバイルウイルスの次は、ホームサーバ、即ち家電製品がターゲットになると同社では予測し、チップレベルでアンチウイルスをはじめとするセキュリティソリューションを埋め込むことを試みているようだ。「Powered by Kaspersky」と書かれた家電製品が発売されるのは、遠い日の話ではなさそうだ。
このブログ記事を参照しているブログ一覧: 世界的アンチウイルスベンダー・カスペルスキー・ラブス社の素顔に迫る" 第2回 そのオリジナルブランド製品群と、日本上陸の戦略
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