掲載誌 | 有料メールマガジン「Scan Security Management(2005年度)」 |
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掲載年月 | 2005年5月10日 Vol.105 |
執筆者 | 大沼孝次・小松信治(アイドゥ) |
2001年頃、携帯電話への迷惑メールが大きな社会問題となった。PCに対する迷惑メールは以前から存在していたが、携帯電話の場合、受信者にも料金の負担が生じることから、メディアに取り上げられた影響は大きい。これを受け、政府は迷惑メールを規制する法的な枠組みの整備を本格化させてきた。
総務省は、2002年4月に「特定電子メールの送信の適正化に関する法律」(以下「特定電子メール法」)を制定、同年7月より施行している。またこれに併せて経済産業省も「特定商取引に関する法律」を一部改正、「改正特定商取引法」として、同年同月より施行している。
現在、日本の公的機関における迷惑メール対策の体制は、警察庁が取り締り、総務省、経済産業省が、法的整備を担っているが、それぞれが微妙に見解の相違を示している。たとえば罰則に関しても、総務省管轄の特定電子メール法では「50万円以下の罰金」と定めているのに対して、経済産業省管轄の特定商取引法では「2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金。法人の場合は3億円以下の罰金」と定めており、両者には相当の違いがある。
ここには、現状における迷惑メールの絶対数の増加、巧妙化、悪質化に追いつくことができず、四苦八苦しながら対応せざるを得ない各省庁の混乱ぶりを見て取ることができる。好意的にとらえるなら、各省共に迷惑メール被害の撲滅について前向きな姿勢を示してきた結果であることに他ならない。今回は対策の最前線に立つ3省庁の最新の取り組みについて具体的に概説していく。
各県警および警視庁では、迷惑メールをはじめとするサイバー犯罪についての啓蒙活動を積極的に行っている。各ウェブサイトでは、手口や被害例について詳しい情報を開示し注意をうながすとともに、解決法についても触れている。
各県警および警視庁が勧めている具体的な解決法が、「相談」だ。各県警や警視庁では、それぞれ相談窓口が設けており、被害にあったら相談してみることを推奨している。また、相談先としては、プロバイダや消費者生活センターなどの名を上げている警察も多い。また、上述した迷惑メール規制2法の存在を喧伝する役割も担っている。このような形で、最前線で情報収集および解決に当たっているのが各県警や警視庁の役どころだ。
一方、全国の警察を統括する警察庁では、より大局的な視点から対策を講じている。1つは警察庁情報通信局技術対策課を中心とした取り組みである。ここでは、サイバーテロに対応するための「サイバーフォース」を立ち上げるなど、積極的な活動を行っているが、その一環として全国の警察組織57箇所における攻撃パターンの検知と、その情報公開を行っている。いわば、全国規模でインターネットを監視する試みを行っているというわけだ。
警察庁のもう1つの試みが「総合セキュリティ対策会議」の開催である。2001年度から開催されてきたこの会議では、広く民間の委員を取り入れ、毎年積極的な議論の末、成果物としてのセキュリティ施策報告書を一般に公表している。
総務省では迷惑メール対策法として前述の通り特定電子メール法を法制化している。この法律の特徴は、規制対象が広告主や事業者ではなく、電子メールの送信を実際に行う者が対象になっていることだ。
この法律では、営利目的で広告や宣伝を行うため、予め承諾を得ていない相手に送信するメールを「特定電子メール」と定義し、そこにおける表示義務項目を定めている。表示しなくてはならないのは、特定電子メールである旨(「未承諾広告※」と件名に表示)、送信者の氏名又は名称と住所、送信に用いた電子メールアドレス、受信拒否の通知を受けるための電子メールアドレス等となっている。また、禁止事項として、受信拒否者への再送信、架空電子メールアドレスへの送信があり、その他、苦情や問合わせへの誠意ある対応が法的に求められている。
しかし、特定電子メール法は効果を上げていないのが実情だ。罰則前に総務大臣の措置命令が出されることもあり、事実上50万円の罰則を受けた事例は皆無である。また50万円という金額があまりにも安いのもその原因だろう。それを受けて、現在総務省では特定電子メール法の改正案を第162国会に提出しており、現在審議が行われている(4月22日現在)。
改定の要旨は、罰則規定の強化として、罰則を100万円以下の罰金または1年以下の懲役に強化すること、送信者を偽った場合には直ちに刑事罰を科すようにすることの2点。さらに適用範囲の拡大として、空メールや友人を装った架空アドレス送信も禁止すること、企業の事業用メールにも拡大することの2点となっている。これにより、総務省としてはよりすばやく違反者に対して過料を科すことができるようになる。
一方の経済産業省では改正特定商取引法にて、迷惑メールの規制を行っている。表示義務内容は特定電子メール法とほぼ同じだが、適用範囲が異なっている。特定商取引法が、もともと通信販売事業者を規制する法律であったことから、改正特定商取引法における迷惑メール規制の対象も、通信販売事業者となっている(ただし、その送信を他社に委託する場合も含む)。
今年1月、総務省と経済産業省は「迷惑メール追放プロジェクト」と称した官民一体の取り組みを4月から実施することを公表した。ここには、2省のほかに多くのインターネットプロバイダも参画している。
プロジェクトの仕組みは以下の通りだ。まず、総務省および経済産業省で携帯電話およびPCを設置し「おとりアドレス」を使って迷惑メールアドレスを収集、分析する。その迷惑メールが、改正特定商取引法あるいは特定電子メール法違反である場合さらに分析を進め、送信元のインターネットプロバイダにその事実を通知する。するとプロバイダは、契約時の約款に基づきその送信者の利用停止等の措置を講じることができる。
実際、インターネットを流れるメールの4通に3通は迷惑メールであるとも言われており、プロバイダにとっても通信量の増大を招く頭の痛い問題であるのは確かだ。だからこそ、政府の試みに協力的なのだろうが、こういった官民共同での実践的な取り組みが行われることには、一利用者として素直に歓迎したい。
アメリカでは34州にて州法により、それぞれ大量の電子メールを送る行為を規制している。中には内容の厳しいものもあり、ワシントン州法ではメール受信者に「スパム業者を訴える権利」を与えている。また、カリフォルニア州法とデラウェア州法では、取引関係のない相手に対して、一方的に広告メールを送ることを禁止している。米アイオワ州では2003年、インターネット・サービス・プロバイダが被害を被ったとして、スパム業者3社に対して合計約10億ドルというスパム裁判において過去最高の損害賠償金額の支払い命令を勝ち取っている。
連邦政府の取り組みも見逃せない。2004年1月より施行された、Controlling the Assault of Non-Solicited Pornography and Marketing Act(CAN-SPAM)法案に署名し、これにより米国初の連邦スパム規制法が誕生した。今後はポルノやバイアグラ、ダイエット薬、一攫千金計画などを売り込む電子メールに関して、適切なラベルを付けずに送信した場合は、懲役刑を科せられる可能性がある。
だが、世界各国で厳しい法律が設けられていながらも、未だにスパム被害がなくなったという国は見当たらない。各州にて厳しい法律が制定されて何年もが過ぎているアメリカでも、テレビや新聞などの各メディアは「スパムとの闘争は、まさに終わりなき戦いである」と報じ続けている。
インターネットは世界中にアクセスできる。それは最大の利点であるのだが、スパム排除を考えるのならば最大の問題点となる。もし、本気で迷惑メールを一掃したいのであれば、世界各国が一丸となって取り組まなくてはならない、厄介な問題であることは確かだ。
このブログ記事を参照しているブログ一覧: 迷惑メールの最新動向 第2回 政府・公的機関の動向
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