私が診断士をとったきっかけ
広瀬
(司会) きょうの座談会は、男性ばかりだった診断士の世界で増加している女性診断士がどのように活躍しているか、またしようとしているのか、というところがポイントになるでしょうが、みなさんのキャリア、診断士資格を取ったきっかけ、それをどう生かしているか、最近どんな仕事をしたか、女性の目でこれからどうしたいと思っているか、というような順序でお話いただきたいと思います。まず最初に、大阪支部の北口さんからキャリアを簡単に・・・。
北口
私は、最初コンピュータ会社でSEとしてソフトウェアをつくる仕事を7年ほどしていました。退職してからは、ちょうど時期的にパーソナルコンピュータを使って簡単にシステムがつくれるパソコンの普及期に入っていましたので、SEの経験を生かしてフリーで小さなシステムをつくる仕事をいくつかしてきました。けれども、企業の中にいるのと違って1人でやっていると、相手企業のトップを説得しなければいけないようなこともあって、自分の力不足、迫力不足を感じて、コンピュータ屋ではなく、情報システムに関してもう少しトータルに会社経営者とお話できるような実力を身につけたいと思って中小企業診断士の勉強を始めたわけです。合格したのは平成3年度ですが、ちょうどその年からビジネス専門学校の講師の仕事が入ってまいりまして、診断士としては、登録してからいくつかの公共診断やコンピュータ導入のコンサルティングをさせていただいたぐらいで、フルに活動はできておりません。こうゆう場にお招きいただくのもためらったのですが、思い切って出てまいりました。
岡山
私は、最初コンピュータ会社でSEとしてソフトウェアをつくる仕事を7年ほどしていました。退職してからは、ちょうど時期的にパーソナルコンピュータを使って簡単にシステムがつくれるパソコンの普及期に入っていましたので、SEの経験を生かしてフリーで小さなシステムをつくる仕事をいくつかしてきました。けれども、企業の中にいるのと違って1人でやっていると、相手企業のトップを説得しなければいけないようなこともあって、自分の力不足、迫力不足を感じて、コンピュータ屋ではなく、情報システムに関してもう少しトータルに会社経営者とお話できるような実力を身につけたいと思って中小企業診断士の勉強を始めたわけです。合格したのは平成3年度ですが、ちょうどその年からビジネス専門学校の講師の仕事が入ってまいりまして、診断士としては、登録してからいくつかの公共診断やコンピュータ導入のコンサルティングをさせていただいたぐらいで、フルに活動はできておりません。こうゆう場にお招きいただくのもためらったのですが、思い切って出てまいりました。
井上
大学の時に1次試験に、会社人になって2次試験に合格しました。大学卒業後、コンサルティング会社、ソフト会社、メーカーなどを経て、3年前に独立して会社をつくりました。現在は、コンピュータ関係を中心とした仕事をやっています。
金子
私は、「企業診断」の10月号に、なぜ診断士を受けたかについて書かせていただきましたが、昔、経営学部で習った科目と同じものが多いのでなんとなく受けたところ、運よく1次試験に受かって、翌年に2次試験に受かってしまったということで、何の目標、目的もなくて大層なことが言えませんので、次の方にお願いします(笑い)。
広瀬
私は工業デザインを勉強して、初めは車のメーカーに勤めて車の色を考える仕事をしていました。その後、デザイン事務所でグラフィックデザインをやっていたときに、CIを通して経営をトータルに見る目の必要性を感じまして、たまたま存在を知った診断士資格の試験を受けました。予備校のおかげで1回で受かって資格を取りまして、それを契機に独立してやっております。診断士の仕事よりは、グラフィックデザインの仕事が多いのですが、今は研究会でファシリティマネジメントの勉強をさせていただいております。さて、キャリアについてひと通りおうかがいしたところで、次に診断士資格を取ってどういうメリットがあったかについて、いかかがでしょうか。
診断士になって視野が広がった
金子
私は家電小売業に携わっておりますから、忙しくてなかなか勉強する時間がなかったわけですが、診断士を受験するためにいろいろ体系的に勉強したおかげで、今まで時間に追われて日常の業務をこなすだけで精いっぱいであった自分の仕事が見えてきたという利点がありました。流通システムの中で自分がどういう立場にあるのか、どういうふうにメーカーや販社、顧客に対応していかなければならないのか、いろんな意味で勉強になりました。
岡山
勉強して、知識を得たというより、思考順序の整理ができたような気がします。さまざまなものに、より興味がわくようになりましたので、自分の視野が少しばかり広がりました。勉強だけで得た知識はまだまだ浅いので、実際のコンサルティングに即役立つわけではありませんが、問題解決のためのインデックスが、おぼろげに見えてきたような気がします。
北口
よかったことは、勉強によって自分の土台が広がったことですね。私は、個人で仕事をしていますから、そういう人脈は非常に貴重ですし、刺激になります。
井上
私も、視野が広がって物事を多角的に見られるようになったこと、人脈が広がったこと、この2点が大きいです。それから、診断士ということで、かなり販売部数の大きい雑誌に写真付きでインタビューが載り、パブリシティという意味でのメリットもありました。
広瀬
私も、直接的には診断の仕事をしているわけではないのですが、会社案内をつくったりする場合、経営に立ち入って話をしたり提案をしたりしますので、中小企業診断士の資格で信用していただけるというメリットがあります。それから、視野が広がったとか人脈ができたということはみなさんと同じです。また、井上さんと同じで、雑誌の「サリダ」が女性診断士の取材に見えたり、外にアピールするチャンスが増えたということもあります。女性だからどうだということを強調するつもりはないのですけれども、中小企業診断士としての仕事の面で男女による差を意識したことはありますか。たとえばメリットであるとかデメリットであるとか・・・。
岡山
クライアントが、”女性”をターゲットに商売を考えているときなどは、同じ女性で、目線の位置が同じであることから、より納得性のある話ができるというメリットがあると思います。消費の場である商店街、スーパー、百貨店などは、ほとんど女性が主導権をとって買い物をしています。提供側がCS(顧客満足)を追求する場合、お客様は本当は何を求めているのか、まずはお客様の立場になることから始まると思います。そういったときに、”女性の私だったら、これは買いたい、これは食べてみたい、こんなものはきっとウケないのでは”という具合に。これは、最大のメリットですし、やらなければならないことだと思います。デメリットは、今のところあまり感じていないのですが・・・。
井上
診断士として女性だから不利だとか有利だとかいうことはないと思います。そして、女性が活躍しにくい会社組織にしばられないぶん、自由です。
金子
私は、男性・女性という分け方、女性だけで固まってしまうことのほうがマイナスではないかと思います。特に診断士資格を取っている方は意識が高い方が多いですから、そういうことから脱却して、男性と対等あるいはそれ以上に仕事をしていけば、必然的にデメリットはなくなると思います。メリットは、最初からないかもれません。
岡山
メリットだと思えばメリットだし、デメリットと思えばデメリットだし、男性とか女性というより、人によると思います。それをビジネスチャンスだと見ればそうなるし、放っておけばボーッと見過ごしてしまう。
北口
相手の男性の女性観とか、女性と仕事をやってこられた経験いかんによって、こちらも仕事がやりやすかったり、やりにくかったりするといったことはありますね。相手があの人だとちょっと身構えてしまうとか、この人は一緒にやりやすいとか。
岡山
それは、女性観だけに限ったことではないんでしょうけどね。自分も含めてですが、常に先入観なしで、相手と接触することは難しいと思います。その後のアプローチ方法で、自分をわかってもらう努力は、誰にでも必要と思います。
女性と仕事 働きやすい環境づくりを
広瀬
女性が働き続けていく場合、一番ネックになるのは子育てと介護といわれますが、北口さんはお子さんが小さい時、ご実家に預けて働いていらっしゃったこともあるそうですね。
北口
おかげさまで実家をはじめ、夫や子ども自身のほか、周りの方々の協力を得て、基本的には社会に出てからずっとなんらかの形で働き続けてきましたし、これからも続けていきたいと思っています。ただ、子育てはそれ自体楽しいことだし、子どもはどんどん成長していくので先が見えますが、介護はある日突然やってきて、どれだけ続くかわからない。女性だけが担わされるのはしんどいと思います。日本はこれから高齢化社会になっていくわけですから、高齢者だけではなくて、身体障害者も、それから決して強調するつもりはありませんが、企業の中では弱者の立場にある女性も、皆が各々の働ける分だけ能力を出し合って働いて、共生していくような社会になってほしい。今までの女性は何かを切り捨ててがんばってきたと思うんですが、子どもや親の犠牲をできるだけ少なくして、かつ女性の能力を発揮できるような企業とか社会のあり方を診断士が提言できたらすばらしいと思います。
広瀬
女性診断士が、女性がいきいき活躍できる社会かどうか採点する指標をつくったらおもしろいですね。アメリカでは毎年、「女性のための100社」というのを選んでいて、それに名前が載ることがステータスになるそうですが、そういう指標があれば、企業も女性に対してもっと前向きに取り組むのではないでしょうか。特に零細企業にとっては、今の育児休暇、介護休暇はお荷物ですから、女性を雇用するとメリットがあると企業に思わせない限り、女性の雇用は進まない。今では、財務諸表が企業の経営指標だったわけですが、文化指標とか会社貢献度の指標になるようなものをつくれたらいいと思いますね。
北口
そういう研究会が具体化したら、ぜひ一緒にやらせてください。
井上
今は、基本的に女性が育児や介護をしなければいけないという社会的な役割分担になっていますけれども、女性だけでなく男性も育児休暇や介護休暇をとれるようになってほしいですね。
広瀬
NECの研究所には育児休暇制度があって男性がとっている例もあるそうですが、若い方たちのパートナーシップはだんだんそういう方向に変わっているように思います。
井上
男女に関係なく育児休暇や介護休暇がとれるような風土をつくるために、診断士がアドバイスできればいいですね。もっといえば、「女性が働きやすい」を一歩進めて、「人間性の発揮できる会社」というのがいいと思います。現代こそ、「人間性の回帰」がもっと社会問題として真剣に考えられてもいいのではないでしょうか。
金子
男性がたとえ育児にかかわりたくても、今の企業社会は5時に仕事を終えて帰れるような状況にはありませんしね。
岡山
家事が好きな男性、抵抗のない男性もいらっしゃると思うのですが、日本の社会では、まだまだ自然に受け入れられないのでしょうね。
井上
男性が家事をやっても世間の評判をあびないようにならないと、育児も家事も介護もすべて置き去りになってしまいます。
北口
女性だけがしんどい思いをして、限界にきて何かを切り捨てるという生き方は、健康的じゃないですね。
広瀬
若年労働者が減っていますから、女性と高齢者の活用は避けて通れませんし、若い人が結婚して豊かな都市生活をしていこうと思えば、やはりダブルインカムが必要ですから、男性もだんだん変わってくるのではないでしょうか。
岡山
福利厚生費とか社会保険の負担の少ないパート、アルバイトの有効的な活用を進めている企業も多くあります。このパートさんの多くは女性です。企業によってはパート比率の大変高いところもありますので、重要な戦力になっているのですが、一方で業績不振になった場合の”調整弁”になっているのも現状です。
金子
女性の活用といっても、給料が安いからとか、いつでも切れるからというのでは、ちょっと問題ですね。
広瀬
企業に働いている女性で、30歳くらいで診断士の資格を取る方が増えているというのは、男社会の雇用システムの問題であって、そのくらいの年齢になると、上にステップアップしていく道がないと思うのです。
岡山
女性の就職率はM字型といわれていますが、いったん結婚とか育児とかで会社を退職し、その後復職しようとしても、選択肢がかなり狭められてしまいます。資格取得が盛んになってきたのは、生涯働き続けたいし、働くならば有利な条件で、かつ働きがいのある職場を求めてくる女性が増えた表れでしょうね。
井上
最初の主任くらいまでは男性と同じようにステップアップできるのですが、係長や課長を目指し始める30歳くらいで、男性はそのまま加速がつくのに、女性は減速してしまう。若い頃は、周りからある程度ちやほやされることもあってなんとかやってこれたけれども、そこから先がないというのが30歳くらいで明確になりますから。
金子
日本では、上司が管理能力を問われるから女性に残業させる会社は非常に少ないそうです。もちろん長く働くことがいいことだとは思いませんし、残業を勧めているわけではありませんが、これからは5時以降も男性と対等に女性を使えるような企業が生き残る。まあ、今はいろいろな意味で過渡期であって、徐々に変わりつつあると思います。
岡山
トップは男性なのですが、部下がほとんど若い女性という人事戦略を実行している企業さんがあります。たとえば、事業部の部長は私と同じ年頃なんですよね。その企業のお客様というのが、やはり若い女性をターゲットにしているし、実際多いのです。部長の話では、大変働きやすいそうです。
金子
どういう面でですか。
岡山
意思決定がすごく速い。中途半端に男性がいるとまずいのだそうです(笑い)。女性のコミュニケーションは縦ではなく、横につながっていることが要因だと思います。社内コンセンサスが容易なんでしょうね。
金子
女性は思いついたことをパッと言うけれども、男性は自分の出世とか、前後左右を考えてから発言する。これからのクリエーティブな世の中には女性のほうが向いていますよ。
広瀬
私もそう思います。
岡山
折衝中に、つい力が入って”ヒステリック”と誤解されてしまう場合もあるかもしれませんが、女性のソフトなところをインターフェイスとして出番をつくれば、会社内でのコミュニケーションが円滑化するような気がします。
女性の柔軟性を生かせ
広瀬
それでは、女性診断士のこれからということについて・・・。
金子
女性診断士の活躍の場というのは、本来あるはずなんです。たとえば商業部門でいえば、商店街や百貨店で買い物をするのはほとんど女性です。お金を稼ぐのは男性でも、財布を握っているのは圧倒的に女性が多い。私はインテリアコーディネーターの資格も持っていますが、家を建てたりするときには女性が主導権を握っています。
岡山
若い女性というのは、たとえば新しいお店ができるとすぐ入ってみたり、好奇心旺盛で新しいことに抵抗感がないですね。
金子
主たる顧客は女性であるにもかかわらず、コンサルティングをやっているのは男性が多い。
広瀬
その前段階の、開発とか企画とか経営方針を決めているのも男性です。ですから経営のトップにもっと女性がたくさん進出しなければいけない。企業内診断士の方には、経営のトップを目指してがんばってもらいたいと思います。世の中は男女半分ずつで成り立っているのだし、女性の半分は働いているのですから、企業の中のよい位置に女性がもっとたくさんいるべきだと思います。
岡山
そうですね。ただ、そういうことが言われ出したのは、ごくごく最近のことで、お手本になる先輩がいないから、効率的なやりかたがわからない。生意気だと言われながら、皆あちこち頭をぶつけながら進んでいるんです。権利の主張だけで、義務が伴っていないと言われるのは、女性の側にも原因があると思います。進んでいくのも女性の力ですが、歩みを止めてしまっているのも女性の力によると思います。
広瀬
男性は社会に出るとずっと働き続けるものだと周りも思っているし、そういうシステムになっていますけれども、女性はいろいろ選択肢がありますから、いい大学をでていても、それは仕事のためや自己表現の手段ではなくて、いいところにお嫁にいくための道具だと考える女性もいるわけです。そういう人に働く女性の足を引っ張ってもらいたくないわけですが、子供を育てながら働く場合、やはり、遠くの親戚より近くの他人で、女性同士、仲良く助け合わなければならないでしょう。
岡山
女性だって、男性のようにさまざまなケースがあることを自然に理解してほしいですね。
井上
会社で失敗したときに「だから女性は駄目なんだ」と女性全体を一括りにして見られると、まずその後は女性にチャンスが回ってきません。
広瀬
その前にも教えてくれなかったりする。
金子
診断士にも女性がどんどん増えて今の何倍にもなったら、「だから女性は・・・」と言われるかもしれません。その辺りをそう切り崩していくかも多きな課題ですが、いつの時代も最初は大変ですから、頭をぶつけながらやらなければいけない。
岡山
どんどん研磨されて、頭が丸くなりますね(笑い)。
仕事と家庭の両立
金子
私も主婦ですが、兼業主婦が企業内で仕事をしていくことはもちろんのこと、診断士の仕事もいろいろやりたいと思っても、実際には大変です。特に子供がいたらなおのことです。母親に専業主婦の層が多かった私たちの世代は、いろいろな面で結構助けられていたと思いますが、皆が働いている時代には、しわ寄せはどこにいくのでしょうか。
井上
子供にしわ寄せがいきますね。私は母親が働いていたので、子供の時分は寂しい思いをしました。そういう経験から、仕事を続けようと思うと子供を産むことを考えてしまいます。
岡山
女性の雇用の流れは、自然に少子化の社会に向いてしまっている気がします。昔と比べて、家事労働はほとんど機械化されて楽になりましたが、まだまだ拘束時間は長いですね。
広瀬
日本の男性が家事を手伝う時間は統計によって違いますが、毎日7~8分とか、多くても30分以内だそうですから、女性がその分がんばっているということでしょう。最近は、高校の家庭科で男子生徒も料理や裁縫をやっていますから、そういう意味では少しずつインフラが整いつつあるのかなと思いますが。
井上
私も、結婚したら時間的に非常に足かせができてしまって、たとえば今日みたいな日は前々から夕飯を用意して出てきますが、突然仕事が入ると対応できません。
金子
どんな悪妻であってもやはりどこかで相手に気をつかう部分ができて、働きにブレーキがかかりますね。
北口
案ずるより産むがやすし。あまり完璧に考えないで、できる範囲でやろうというくらいに気楽にかまえたほうがいいのじゃないでしょうか。あるときは仕事をセーブしなければならなくても、また別のときは、少々家庭を犠牲にしても仕事をがんばるとか……。ただ、肉体的にも精神的にもうまくバランスのとるのはなかなかむずかしいですが。
岡山
有資格者の女性の集まりで、やはり同じような話題で、独身の女性は頭が固いという意見がありましたよ。結婚していたほうが、頼りがいがあるそうです。
岡山
制約が多くなりますし、忙しくなりますが、より効率的に物事を進めようと意識が働くそうです。ある意味で結婚は親元からの独立ですから、男女に限らず包容力と底力がでてくるのではないでしょうか。
井上
結婚すると人間的に幅が出るというお話がありましたが、私の場合、結婚してから逆に幅がなくなったような感じがします。人からいい仕事だと褒めてもらっても、自分ではちょっと納得できないことが多いのです。それと、仕事と家庭以外に、勉強したり、1人でくつろいだり、外の空気を吸ったりする時間がかなり少なくなりました。
北口
睡眠時間を削る以外にない。
広瀬
でも、井上さんの場合は、結婚する前より今のほうが健康的というか、頭だけじゃなくなったという感じがしますよ。
井上
そうおっしゃっていただけるのはうれしいのですが、自分の中には納得がいかないまま時間がたって、このまま年をとっていくのじゃないかというあせりがあるんです。
広瀬
平均寿命も長くなったことですから、大変なときもあるけれども、いつかは自由になる時間がたくさんできてくると思いますよ。
北口
女性を雇用する企業の側もそういう長い目で見てほしいですね。
広瀬
今は、一本の道しかないわけですけれども、ちょっとスローダウンしてまた復帰できる道があるというダブルトラックになるといいですね。
診断士の仕事の価値を高めたい
金子
女性診断士が200人に増えたということですが、女性診断士としての仕事を組織化するような場所ができれば、ここの業界で女性診断士活用システムをつくれますね。もとも、男性でもプロコンとして仕事をしていらっしゃるかたは少ないようですが。
岡山
全体の1割程度でしょうか?
広瀬
20%くらいのようです。でも、現実には関連企業の指導、リテールサポートなど、業務として実践している方もかなりいるようです。
金子
女性もそういう方が増えて方向性が見えてくれば、企業の終身雇用制度の中で一度外れたら戻れないではなくて、女性の職業の場として一つの道を作れるんじゃないですか。たとえば税理士さんとか社会保険労務士さんは、女性も男性と対等に活躍している方が多いようです。先ほどの商店街診断のような本来女性診断士に向いた仕事が増えてくれば、もっと自由な形で働けるようになると思います。
岡山
地域社会への貢献を、経営理念に挙げている企業もたくさんありますが、制度を整え、女性社員が子供を育てられるようにバックアップすることは、大きな社会貢献になることをわかってほしい。
金子
今は、零細な企業から大企業まで、不況で体質改善を図らなければならない変わり目のときですが、こういうときは女性が活躍する場を切り開くいいチャンスだと思うんです。私のところは下町のさびれつつある商店街の中にあるのですが、目に見えて商店が減っていますから、昔は絶対女性の意見など聞こうとしなかった頑固な商店の経営者が、さすがに弱ったのか、私の意見を聞いてくれるんです。スーパーなども、女性の目で見るとこれは顧客への対応として間違っているというようなことを男性だけの考えでやっている。これからの企業は生活者の立場に立っていかなければ生き残れないのですから、女性の視点が重要になって、女性の能力も発揮しやすくなると思います。
岡山
生活者としては女性のほうが先輩ですから、お互いに理解し合うよい機会でしょうね。
井上
男性・女性に関係なく、診断士だからできる公共診断の場合、報酬が1日1万5000円から6万円までです。いろいろ費用がかかることを考えると、ボランティアみたいな感じです。もちろん、その機会を通じてクライアントになっている例もけっこうあると思いますが。
広瀬
報酬が少なくても診断は一生懸命すると思いますが、依頼先の姿勢もやりがいに影響しますね。
北口
私も、公共診断をやらせていただいたことがありますが、依頼先もお金を出していないですから、あまり真剣じゃないということは確かにあると思います。
広瀬
やはりお金を払わないと、お互いに責任がなくなると思いますね。
金子
お金をいただいて診断すると相手も真剣で、これを見てもらいたい、あれも見てもらいたい、次から次へといろんな課題を持ってくる。
井上
条件面でもあいまいなことがあります。ふつう、仕事をする場合、具体的にどういう内容で、納期はいつ、報酬はいくらということを最初に話すのですが、診断士関係から出てくる仕事は、いつまでにこういうことをやってほしいという大まかなものだけで、お金のことはなにも言わない場合があります。受けた仕事の中にはあまりにも金額が低いので交渉しようとして、生意気だと言われたこともあります。普通のビジネス感覚では考えられないです。また、ひと通り仕事が終わったとで追加の仕事を頼まれたまではいいのですが、それに対する報酬はゼロで、言い争いになったこともあります。まず自分がきちんと利益を出せる仕事をしていかなくては、企業に対して「利益を出せる体質にしなさい」なんて指導できません。
広瀬
診断士、ビジネスコーディネーターと称している人が、なんでそういう仕事のやり方をするのかということですね。
井上
全く不思議ですよね。「お金にならなくても、最初は勉強だと思って引き受けなさい」と、先輩から論されたこともあります。でも、そういうところからくる仕事というのは、初めだけがお金にならないんじゃなく、それからあとも同じ状況が続きます。
金子
ソフト業務に対する認識が違うのですね。
広瀬
大阪ではどうですか。デザインの場合、東京はデザイン料をまあ払ってくれるけれども、大阪はもっとシビアだという話がありますが。
北口
私はコンピュータのシステムをつくってきたほうですから、機械を買って、システムができて、動いていくらという世界なんですね。システム自体、ソフトウェアだから価格設定が非常にむずかしくて、ここはこうでなかった、こうしてくれ、ああしてくれという追加・変更の要求がけっこうありますけれども、動くためのソフトというのは一応成果としてありますから、これに対してはいくらということはできます。ただ機械も買わない、システムをつくるわけでもない、今動いているシステムを診断するだけということになると、おそらくぐっと下がると思います。ここが悪いから直しましょうということになれば、それを直していくらということで、診断というか調査・分析・報告書だけでそれなりの報酬を要求できるまでにはなっていません。
広瀬
おまけというか、一つの営業手段になっているわけですね。
北口
それではいけないのですけれども・・・。
岡山
仕事の報酬については、クライアントとの交渉で決定していますし、まだ公共診断の経験がありませんので、報酬金額についてまだ意識したことがありません。ただ女性診断士の業務範囲自体はこれからどんどん広がっていくことが可能ですから、ビジネス・チャンスはたくさん出てくるでしょうね。
「私たちが道を開く」の気構えで
広瀬
そろそろ時間もなくなってきましたので、みなさんの抱負を・・・。
井上
私もビジネスチャンスはあると思いますので、報酬とか情報の共有とか、マーケットの潜在需要に対して応えられるような仕組みをもっと整えていかなければ、と考えてしまいます。まだいろいろ問題はあると思いますが、「手本がないなら、自分が手本になる」ぐらいの気持ちで、あとからくる人たちのためにも、キラッと光る存在になりたいと思っています。そして、何年か何十年か後に振り返ったとき、そこに「道」ができていれば、こんなにうれしいことはないでしょう。
金子
診断士の資格をとってまだ3年ですけれども、診断士としての仕事をいくつか声をかけていただきました。私は小売業に従事しているので、なかなか時間がとれませんが、いろいろやらせていただいております。まだまだぜひ女性にお願いしたいという仕事はたくさんあると思いますので、そのチャンスをいただくために、また期待に応えられるように日夜研鑚して自己啓発に努め、社会的にも男性診断士以上に認めていただけるようにがんばっていきたいと思います。
岡山
診断士の中でも、競争社会になっていくと思います。クライアントの顧客満足を得られない場合、クライアントはよそを選ぶし、リピートがかからないでしょうね。
広瀬
コンサルタントは診断士に限らないわけですからね。
北口
1人ひとりがそれぞれよい仕事をして結果として女性診断士の地位が上がれば、それに越したことはないですね。私自身はあまり診断士という資格だけにこだわらずに、自分のできる仕事を常にベストを尽くしてやっていきたいと思います。ただ、いつも診断士としての視点は持っていたいですね。
広瀬
女性診断士に対して、みなさん前向きな明るい思いを持っていらっしゃるようですが、それはみなさんの仕事に対する自信と実績が言わせているのだと思います。私も来たチャンスを生かして、ますます裾野を広げる努力をしていきたいと思います。
金子
私が診断士資格を取って最初に感じたのは、診断士が何なのか、何をすればよいのかわからないうちに、いろいろなことに参加したり、たくさんの方と名刺を交換したりして、うろうろしている間に時間が過ぎてしまいました。ですから、これから診断士になられる方には、診断士というのはこういうものですよという案内板ぐらいは立ててあげたいと思います。
広瀬
最初のうちはわからなくて混乱しますよね。
金子
1年くらいたつと、ようやくいろいろわかってくるんですね。わかって冷静に取捨選択をしていけば、有効に使えるネットワークですが。
岡山
いろんな誤解もあるのではないでしょうか。
広瀬
そうですよね。
金子
振り回されるだけだからやめたいという方もいらっしゃいました。残念ですよね、せっかくこういういい人間関係もできるのに・・・(笑い)。ネットワークとか人脈の活用の場としては有効ですから。
岡山
ネットワークならば、せっかく「協会」という拠点があるわけですから、パソコン通信などを利用して、情報や知識の共有化を全国レベルでできないものでしょうか?
井上
診断士の一部ではそのような動きもありますが、「全国レベル」ということが必要ですね。たとえば、ブームにのって診断協会もインターネットを通じて情報交換を行うとか。私、ホームページ(表紙の部分)を書きますよ。デザインは広瀬さんかな(笑い)。
広瀬
ホームページのデザインはともかく、インターネットまでいかなくても、とりあえず普通のパソコン通信でも、いろいろできますよね。子育て中の女性社員に、パソコン通信を使った在宅勤務を取り入れて成果を上げている会社もありますから。岡山さんのおっしゃるように協会にアクセスして、情報や知識が得られれば、診断士の活用の道も広がりますし・・・。時代の変化とともに、女性診断士が活躍できる場はますます広がっていくと思います。診断協会も、女性が200人になったということで女性パワーに期待し、バックアップしてくださろうとしています。私たちもその期待に応えて、女性診断士ならではの視点で、新しい提案ができればいいですね。今日はありがとうございました。